●Pepper's Project Exhibition 「Psychological サイコロジカル展」
  1999.1/10sun 三瀬夏之介「シナプスの小人」
         来場者とともに小人を見るための儀式

ワークショップのための三瀬夏之介のシナリオテキスト

僕とあなたが同一の体験をしたとしても、聞いた音、感触を同じには感じない。
まずそのことから話をしよう。だからまず5分だけみんなで同じ体験をしてみよう。
そしてその差異について話してみよう。
はっきりいってこの方法は僕がいい夢を見るために行う儀式の押しつけです。
みんなにはみんなのやり方があると思います。
まず僕の方法を知ってもらって、それから各自で方法を見つけてもらえたらと思います。
もしこの方法で小人の夢を見ることができたらうれしいことです。

さてこのワークショップは芸術行為ではありません。これはただの体験です。
この体験を捉え直し、還元された表現、
すなわちここにある十字架型のモノにする行為が芸術的行為だと思います。
だからこのワークショップは作品になる前の混沌としている世界を表しているともいえます。

儀式1
砂山にハイゴを突き刺し、小さなころよく遊んだ公園を思い出してもらう

「小学生の頃、僕たちは未来を知る方法を持っていました。みんなが寝静まった真夜中、
闇に怯えながら近くの公園に行き、小枝でハシゴをつくります。
それを砂場の砂山につき刺してから帰って寝るのです。
運よくハシゴが倒れなかったり、壊されなければ、
その夜夢の中に小人がハシゴをつたってやってきて未来を教えてくれるのです。」

というとても個人的な物語を下敷きにしている。昔遊んだ公園を思ってもらうことによって非日常へと
チャンネルを変えてもらうのだ。
またこの儀式の間はずっと目を閉じてもらうことになる。
目を開けてしまうこととハシゴが倒れてしまうこととは、空想が現実に負けてしまうという意味で同じである。
ちなみに公園の儀式では、もしハシゴが倒れたらそのまま眠るように死んでしまうというので、
僕らは結構本気で取り組んだのである。

儀式2
オルゴールの音を聞いてから各自に、願い事をしてもらう。

願い事というと安っぽく聞こえるかも知れないが、要は現実の束縛から逃れ、理想の状態を想い、
祈ってほしいのです。

儀式3
静まる空間に大音量で心臓音を流す。

オルゴールを使って作品を作るようになって「小さな音」は耳の能力を増大させることがわかった。
小さな音を聞くためには、耳を集中させる必要がある。
作品を聞くために集中した耳は非常に敏感になり、その結果、作品が鳴り終わった後には、それまで気づいて
いなかった周りの騒音の存在を明確に知覚することになる。これは新鮮な驚きであった。

ちいさな音を聞こうとして、耳の状態を少しだけ敏感にするだけで、日常の音の世界は一変する。
/藤本由紀夫
儀式2 で敏感になっている聴覚に大音量で刺激を与える。人によっては不意打ちに驚くかも知れないが、
願い事とは悪魔との契約かも知れない。
音の刺激によってその時の事を夢みたという僕の経験からこの行為は行われる。
しかし大音量に驚けたのは最初の一回だけで、今ではその行為自体が記号化されている。
パブロフの犬のような。

非日常的な行為をして心にきざむ、あるいは儀式を記号化して体に対してスイッチのような機能にする。
とにかく夢の中に小人を引きづり出してこなければ行けません。
小人が未来を教えてくれるという情報が強くインプットされていたら、夢はつじつまを合わせるために
小人に未来を語るでしょう。本能よりももっと下のも意識化の力が呼びおこされるはずです。

ワークショップはほぼ彼のシナリオテキストに沿って行われた。
ギャラリーの空間の中央に吊られた十字架型の棺。横たわっているのは彼自身というイメージとか。
棺の周りに麻ひもの小さなハシゴがさがり、また30センチくらいの銅板の皿が数枚、長手に低く麻ひもで吊られた。
その皿の上に彼の子供のころの奈良の公園の砂場の砂が盛られていた。
吊られた棺の足下に輪のレールに沿って電車が動くと音が出る錆びきったオルゴールが置かれ、
壁の3面には木の枝のハシゴが祀ってある祭壇のような小さな箱の作品が掛かっていた。
そして教会音楽が静かに流れていた。
入場した参加者はかれの作った小枝のハシゴを一つ一つ渡され、それを銅の皿の上に自ら刺して目をつぶった。
シナリオと少し異なったのは願い事を想うのでなく、10年後の自分を想うこと。
大音量が心臓音でなく爆竹だったことの2点。
儀式は10分足らずだったが、儀式が始まる前の静かに待つ時間、儀式のあとの彼の話、
参加者の感想、彼と参加者のことばのやりとりなどとても濃い2時間が流れた。
Pepper's Hiro